DOCSIS3.0におけるユーザートラフィックとコントロールトラフィック

DOCSISでは上りチャネルの情報を常に更新してケーブルモデムからの上り通信を開始するタイミングを決めるため、下り信号にMAPと呼ばれる制御信号を常に流すように規定されています。
また、DOCSIS3.0ではこのMAPの中に、従来からある上り中心周波数、上りChannel ID、Modulation-Profileパラメータに加え、チャネルボンディング関連情報のMDDを追加して送信しています。

下りのトラフィックに占めるMAPの割合はMAPサイズ値の設定によって異なります。
4 ticks毎の場合には約400Kbps(256QAMの場合だと約0.5%)ですが、MAPサイズが1 ticksずつ小さくなる毎に約200Kbpsづつ増えていき、最小値であるMAPサイズ1の場合では約2.0%、1Mbps弱のトラフィックを占有することとなります。
Best Effort型のSerivce Flowでは、ケーブルモデムが上りの通信を行う際、1回目のMAPを受け取った後にBandwidth Request、次の2回目のMAPを受け取ってからデータ通信を行います。
この結果、MAPサイズを大きくすればするほど上り通信にタイムラグが生じて個々のケーブルモデムのスループットは低下し、MAPサイズを小さくすれば上り通信のタイミングが早まるので、個々のケーブルモデムのスループットは向上する傾向にあります。

ところで、DOCSIS1.x/2.0であれば、下りは1チャネルだけなので1Mbps程度のオーバーヘッドは無視できる範囲で済むのですが、DOCSIS3.0では下りチャネルボンディングがあり、さらにMAC Domain Service Group(MDSG)という概念で、4チャネルの場合、3チャネルの場合など、複数のチャネルボンディングのセットをモデム毎に使い分けることができるようになったため、設定によってはMAPトラフィックが大幅に増え、下りトラフィック圧迫の要因につながることもあります。

例えば、4波ある下りチャネルのすべてがPrimary Channelだった場合、MAPサイズが1だとそれぞれの下りチャネルには1MbpsづつのMAPが流れるので、下りのボンディングチャネル全体で見た場合には4MbpsのトラフィックがMAPによって占められてしまう計算となります。
さらに、MDSGによって4波から1波まで4種類のチャネルボンディングセットを用意した場合だと、それぞれのMDSG用のMAPが重複して流れますので、4Mbps×4、合計で16Mbpsものオーバーヘッドが!
この結果、下り160Mbpsサービスを謳っていても、純粋にトラフィックとして使用できるのは論理的には約144Mbps、実際のEthernetや他のDOCSISヘッダーを考慮すると、約130Mbps程度しかスループットが出ないことになってしまいます。

つまり、個々のケーブルモデムのスループットを上げるためにMAPサイズを小さくすると下りのオーバーヘッドが増え、MAPサイズを大きくするとオーバーヘッドが減る代わりに個々のケーブルモデムのスループットは低下します。

通常、各メーカーのCMTSでは、MAPサイズ値のデフォルトは4になっています。
この値を使う場合には、下り4波・4種類のチャネルボンディングセットを設定してもトータルでは4Mbpsのオーバーヘッドで済むようになりますので、下りのトラフィックが気になる方は、お試しいただいてはいかがでしょうか。


なお、詳細はCable Labs発行のDOCSIS3.0 MULPIに書かれていますので、ぜひご一読をおすすめします。